Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「ふっかーつ!♪♪♪」
と明るい声で、心音が訪れてきたのは次の日の午後7時。
メガネじゃなく、コンタクトに換えてあって、綺麗に化粧もされていた。
黒くて長い髪も少しの乱れもなくまっすぐだ。
おまけに指先には鮮やかなグリーンのグラデーションで色づいたネイルが施されている。
一昨日の彼女とは大違い。
ジョシュアのことも気にしていない様子だったから、ちょっと安心した。
考えてみれば、彼女が過去の男のあれこれに気を病んだりしない性格だ。
「仕事はもう大丈夫?」
「しっかり終わらせたわ。文句は言わせない。昨日一日寝たからお肌もプルプル♪」
そう言って笑うと、心音は白い頬に手を置いた。
「ね、これから暇?暇よねぇ」
「失礼な。あたしだってやることが……」
これといってない…
「あたし行きたいとこあるのよ~付き合って♪」
と心音は、あたしの返事を無視してマイペースに話を続ける。
いやな予感がして、あたしは顔をしかめた。
「行きたいとこってどこ?クラブとカジノはごめんよ」
「違うわよぉ」
そう言って、心音は持ってきたバッグから何かの布を取り出した。
ピンクや黄色、青や緑などの派手な色が混ざり合ったその布は
ビキニだった。
カップの三分の一が黒一色で、ちょっと凝ったデザインだった。
「あんたの分も用意してあるから安心して?」
そう言って取り出したのは同じデザインのビキニ。
ブラウンと白の細かいドット柄で、心音の派手なビキニよりはましだけど―――…
ビキニ!!
無理っ!!!