たったひとつ

目を覚ますと時計の針は2時間

進んでいた。

カーテンを開き隣のベッドを見ると

先輩はすでにいなかった。

からっぽのベッドを見つめると

はぁ、と溜め息がひとつこぼれる。

と同時に

「何溜め息なんてついてんだよ」

少し低い聴きなれた声が聞こえ

驚いてその方向を見るとそこには

湧哉が立っていた。

「いつからそこに?」

「今」

私最近ドキドキしてばっかり。

でも湧哉といる時のドキドキは苦しい。

隠し事をしているかのようなこの感覚。

「わざわざ来てくれたの?」

先輩のことを頭から消そうと私は

話題をつくる。

「2時間帰って来ないから心配でさ」

その言葉に私の心は暖かくなった。

それは嘘なんかではない。

それなのに私の頭から先輩が

消えることはなかった。
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