たったひとつ

「えぇ、お大事にね」

ベッドに横になると二人の会話に

耳を澄ませる。

「桐谷君も少し寝ていったら?」

「そうします」

え・・・。

緊張なんかしたくないのに

心臓は勝手に苦しいくらいに

ドキドキしていた。

ミシミシとベッドが軋む音が聞こえる。

この薄いカーテンの先に先輩がいる。

手を伸ばしてカーテンに

少しだけ触れてみた。

こんな薄い布切れに私の勇気は

つぶされてしまう。

超えられないその壁をキュっと

掴み、気がつけば私は泣いていた。
< 9 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop