たったひとつ
「えぇ、お大事にね」
ベッドに横になると二人の会話に
耳を澄ませる。
「桐谷君も少し寝ていったら?」
「そうします」
え・・・。
緊張なんかしたくないのに
心臓は勝手に苦しいくらいに
ドキドキしていた。
ミシミシとベッドが軋む音が聞こえる。
この薄いカーテンの先に先輩がいる。
手を伸ばしてカーテンに
少しだけ触れてみた。
こんな薄い布切れに私の勇気は
つぶされてしまう。
超えられないその壁をキュっと
掴み、気がつけば私は泣いていた。