たったひとつ

どうして私の中であの先輩の存在が

大きいのか、わからない。

私は湧哉のことが好き。

それなのに、一度も話したこともなくて

名前すら知らない先輩がなぜか私の

心を狂わせている。

このまま湧哉と一緒にいたら私は湧哉を

傷つけるかもしれない。

たくさん悩んだけど答えなんか

出なかった。私はちゃんと湧哉の事が

好きだったから。


悩み続けて一週間が経った日、

私は腹痛が酷くて保健室に行った。

ソファに座っているとドアが開く音が

して誰かが入って来るのが見えた。

「先生、今日気持ち悪い」

初めて聞くその声。

想像してたよりも少し高かった。

その声の持ち主は私の目の前に

腰を下ろす。

「それ記入しといて」

先生は保健カードを指差し一言

そう言った。

言われた通りに書き出す彼。

なぜか鉛筆の先を目で追ってしまう私。

〝桐谷 幸希〟

きりたに こうき・・・。


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