たったひとつ

私は心の底から嬉しいと

思ってしまった。

ずっと知りたいと思っていた人が

今目の前にいて、勝手ながら名前も

知ることが出来た。

「書けた」

先輩の声に我に返り私はそのカードから

パッと目を逸らした。

「桐谷くん今日は・・・頭痛も

あるみたいね」

カードを見ながら先生が言う。

「熱はないと思うけど、だるい」

そう言う先輩の声はとても小さくて

本当に具合が悪いのだと思った。

「サッカーで疲れちゃったかしら?

今日は部活出ちゃダメだからね」

昨日は試合だったと湧哉から聞いていた。

先輩は私のこと知ってるのかな。

湧哉の彼女だって事も知ってるのかな。


私はこのとき、本当に最低だけど

湧哉の彼女であることを知られたく

ないと思ってしまった。

知らないでいてくれと願ってしまった。


「先生、私も気持ち悪いです。

1時間ベッド使わせて下さい」

先生と先輩の会話に口を挟み私は2人の

顔も見ずに勝手にベッドへと向かう。

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