占い師の恋【完】
痛いよ、と。
ふにゃりとした笑顔で言うコイツ。鼻で笑えばそれを鼻で笑われた。悔しい。
エレベーターを下りて、右に曲がった一番奥の部屋。その部屋の前で足を止めた青はズボンのポケットに手を突っ込んでキーケースを取り出す。
いくつかある鍵の中から一つをドアの鍵穴へ差し込み回すと、ガチャリとドアの開く音。
ドアの横の表札に゙杉山゙って書いてあるのが何だか新鮮な気がした(当たり前だけど)。
「どーぞ。」
「お、お邪魔シマス。」
開かれたドア。ウルサイ心臓の音が鬱陶しくなるけど、嫌ではない。
それは多分、青を感じて胸が高鳴っているから。
部屋の中へ足を踏み入れた私の鼻を掠めるのは、青の匂い。あのフルーツ系の甘い香水の香りだ。