藤井先輩と私。
「ええな?」
藤井先輩に近づくなと言われましても。
どうしてそんなこと言われなきゃならないのか分からない。
「なんで……ですか?」
「理由なんてない。悠太はあたしのものやから、誰も触れて欲しくない」
杏奈ちゃんの瞳がかすかに揺れる。
…なんだろう。
杏奈ちゃんは何かを隠してるみたい。
なぜか私にはそう思えて仕方がなかった。
「杏奈ちゃん…なにか隠してる?本当はなにが言いたいの?」
「言う必要はない」
「どうして?教えてよ。……教えてくださいよ」
いちいち敬語に言い直してしまう自分が恥ずかしい。
杏奈ちゃんは、少ししてため息を吐くと、近くにある鉄棒に両腕をかけてもたれた。
「あの…杏奈ちゃん?」
「悠太を大阪に連れ戻しに来たんや。あたしは」
大阪に連れ戻し…?
「悠太の家は、あんなマンションやない。大阪の家が本物や」
杏奈ちゃんは、悲しくて苦しい顔をした。
あっ…この表情知ってる。
藤井先輩もたまにこんな顔する。
そう、夢の話をしてるときとかに。
「あたしは、悠太と昔みたいに一緒に住みたい。笑いたい。帰ってきてほしいんよ」
杏奈ちゃんは、そう言うと目元をこすった。
泣いてるのかな。
そう思っていたら、
「泣いてませ~ん」
と、充血した目でこっちをにらんだ。
「藤井先輩は、大阪にどうして帰らないんですか?どうしてこっちに来たんですか?」
夢の他にも、藤井先輩がこっちに来た理由があるのかもしれない。
「オトンと喧嘩したんや…それ以上は、言わん。もう帰る!」
そう言うと、杏奈ちゃんはこちらをちらりとも見ずに走って帰って行った。
噴水公園にポツンと取り残された私。