【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
簡素なドアノブをゆっくりと捻る。
――――ギィー……
錆びた蝶番(ちょうつがい)が先程聞いた音と同じ響きで鳴いた。
ポタポタと…
僕の濡れた毛皮を伝って
絶えず落ちる雫が、コンクリートで剥き出しの床を濡らしていった。
雨はいっそう激しさを増し、ザァザァと物置小屋を打ちつけた。
何故……今まで考えなかった…?
何故、何の根拠もなく大丈夫だなんて思い込んでいた…?
当たり前だなんて…そんな根拠のないこと、……
(…ありは、しないのに…。)
大きな屋敷の隅に建つ小さな物置小屋…
使われてなどいないのだろう…ガランと何も無い部屋の隅。
…虚ろに開かれた瞳、鼻に口の端から流れる…血…
まるでボロ雑巾のように転がった小さな君から放たれる…
むせかえるような血の匂いと
甘い甘い花の…
――――堪らなく、愛おしい匂いがした。
毛皮から伝い落ちる雫はやがて止まったのに
瞳から絶えず落ちる雫は……止まりそうになかった…。
見つけたよ……僕の、愛しい…愛しい……《運命の花嫁》。