はぐれ雲。
カーブでの亮二のバイクさばきは誰にも真似できない。
そしてパトカーに追跡されても、決して捕まることはなかった。

亮二は常に暴走中は、目から下を布で覆う。

警察に顔写真を撮られないようにするためだ。

彼らは暴走族を追跡する際には、写真を撮る。

バイクやメンバーはもちろん、赤信号無視や逆走などの違反もカメラに収める。

それらの写真から、その時の服装や持ち物を家宅捜索で証拠品として押収されれば、言い逃れはできない。亮二はそのあたりをよく知っていた。

バイクも自宅とは離れた場所に隠し、暴走時に使った服はすぐに処分した。

彼は証拠を残さないことを徹していた。

何度も警察から事情を聞かれたりしたが、すぐに帰ってくる。

「疑わしきは、罰せず」
彼はよくそう言って、笑っていた。

浩介はそんな彼をかっこいいと思っていたが、なかなか話し掛けるきっかけがつかめずにいた。
雲の上の人だと思っていたから。

そんなある日、いつものようにバイクのエンジンをいじっていると、亮二が現れた。

「器用なもんだな。俺のも見てくれよ」

そう言って浩介のそばに腰をおろす。

「自己流なんで、自信ないっす」

「いいから。それが終わったら見てくれ」

そのまま彼は浩介の手の動きを見ていた。

がらにもなく、浩介は緊張する。

「女みたいな細い指だな」
ポツリと亮二が言った。

「え?あ、そうっすか?
うちは実家が病院なんですけど、親は俺の指を見て外科医にさせたかったみたいで。でも俺、そんなの興味なくて。機械いじっていたくて、家を出たんすよ」

浩介は自分の指を見つめた。

ちらりと亮二に目をやると、彼もまた手を見ていた。左手の薬指と小指の付け根に、大きなマメの痕がある。

「亮二さんは何かスポーツでもやってたんすか?」

彼は笑いながら「別に」とその手を握り締めた。

これがきっかけで、浩介は亮二のバイクの手入れをするようになった。

車輪やエンジンまでも、いつもピカピカに仕上げた。

すると彼はいつも浩介の肩に手を置いて
「おまえのおかげで今夜もガンガン飛ばせるぜ」と言ってくれた。

初めて自分を認めてもらえたようで、嬉しかった。

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