はぐれ雲。
意を決して、彼は博子の背中に向かって口を開いた。
「新明亮二」
彼女の手が急に止まる。
「知ってるね」
背を向けたままで表情はわからなかったが、今の様子からして無関係ということはなさそうだ。
「どういう関係だ」
この時には、完全に刑事の口ぶりだった。
しかし博子はゆっくりと再びアイロンを手に取る。
「子どもの頃、剣道教室で一緒だったの」
静かにそう答えると、それを服の上に滑らせていく。
「それだけじゃないはずだ」
彼女はアイロンを置き、両手を膝の上に置いた。
「どうなんだ」
シューッと長い音を立てて、蒸気が漏れる。
それを合図であるかのように、博子は言った。
「中学の剣道部の先輩、でもあるわ」
その答えに、思わず達也はカッとなり、
「それだけじゃないだろ!!」とたまらず拳で壁を殴った。
ドン!という音に、博子の肩がビクッと強張る。
安普請の壁にかかったカレンダーが大きく揺れた。
「俺が聞きたいのは、そんなことじゃない!君だってわかってるはずだ!」
その揺れが収まるのを待って、達也は一度大きく深呼吸した。
そしてできるだけ穏やかに言う。
「生活安全課で、君の名前があがった」
ようやく博子が振り返った。
達也と目が合う。
彼女は明らかに動揺していたが、それでも達也は続けて言った。
「売春斡旋の容疑で逮捕された湊川リサという女が、圭条会幹部の新明亮二と君が…深い関係にあると、そう証言した。警察情報の漏洩があったかもしれないと、今県警の上層部で話が出ている」
「嘘よ、なんでそんな…」
形の整った唇が微かに震えている。