はぐれ雲。
「お話をうかがうだけなら、ご自宅で、とも考えたのですが。加瀬さんは県警官舎にお住まいですよね。やはり同じ職場の者が近所、ということもありますし、ここの方がいいと思いまして…」
「お気遣い、ありがとうございます」
淡々と博子は言った。
「それにしても、こんな部屋じゃなくてもいいんですが、生憎ここしか空いてませんで」
安住と名乗った強面の刑事は、言い訳がましくそう言うと、透視鏡のはめられた窓に目をやった。
その窓を通して、隣室からこの取調室の様子が筒抜けなのは、博子でも知っている。
真ん中にグレーの机と、簡素な椅子。
隅には取調べ内容の記録に使われるパソコン。
殺風景な部屋。
まるで容疑者だ。
しかし、当然だと博子は思っていた。
「ご主人の加瀬達也さんとは警察学校の同期でしてね。彼は成績も常にトップで、人気ありましたよ。学校はほとんど男だけでしたけどね。警察学校を出て、すぐに結婚したと聞いていましたが、奥さんがこんなにきれいだと、そうしたくなるのもわかりますよ」
博子は口元だけで笑うと、机に視線を落とした。
女性刑事が、隅のパソコンを起動させる。
「ご主人とはどこで知り合ったんですか?」
「大学の部活で」
「何をされてたんですか?」
「剣道部でした」
「なるほど。ご主人も相当強かったみたいですね。あなたも長い間、剣道されてたんですか?
僕は柔道だったもので、剣道のことは詳しくはわからないんですが、あれって…」
「あの…!」
博子は膝の上に置いてあった手を強く握り締めた。