はぐれ雲。
「お聞きになりたいことを、はっきりとおっしゃていただいて結構です。私のような者に、お時間を取らせるわけにはまいりませんから」
彼女は、向かいに座る安住の顔をしっかり見た。
その様子に彼は、参ったなと苦笑いで返す。
「では早速なんですが、加瀬さん。あなた、新明亮二さんをご存知ですよね」
「はい」
「彼とはどういう関係ですか」
「中学の時の部活の先輩です」
「それも剣道部?」
「はい」
「本当にそれだけの関係ですか?」
安住が何を言いたいのか博子にはわかっていたが、あえて素直に質問に答える。
「はい、学年が一つ上の先輩でした」
向かいの男は博子のあまりにも率直な答えに、ボールペンで自分の額を弾いた。
「では今現在、彼が指定暴力団圭条会の幹部だということはご存知でしたか」
「いいえ、全く知りませんでした。先日、夫の加瀬からそう聞かされて、私も驚いているところです。まさか、こんなことになるなんて」
「本当に?」
疑ったような目が、博子をのぞきこむ。
「ええ、本当です」
言いよどむことなく、彼女もそう返す。
重苦しい沈黙が続いた。
女性刑事のキーボードを打つ手が止まるのが合図であるかのように、安住が身を乗り出した。
「最近、彼に会われたのはいつですか」
「さぁ…7月の初めだったと思いますが」