はぐれ雲。

その時、母の幸恵がドアをノックした。
「入るわよ」

博子は我に返って、アルバムを閉じる。

「ちょっと、あんた、少しでも食べなきゃ、体壊すわよ」

入ってくるなり、幸恵は机に皿を並べ始めた。
さっき言っていたおでんが、こんもりと器に盛られている。

くすんだ黄色の辛子が、これまたたっぷりと小皿の脇に載っている。

「うん、ありがと」

「あら、何見てたの?写真?懐かしいわねぇ」

甲高い声でそう言うと、博子の隣に座りベッドの上に置かれた古いアルバムを開いた。

彼女も懐かしそうに目を細めて見入る。

何枚かページをめくったところで、

「あ、この子、えっとなんていったけ?」

母は指を差したまま、天井を見上げた。

必死に記憶を呼び起こそうとでもしているのだろう。

「あ~!ダメッ!思い出せない」

「…新明くん」

思いがけず、博子の声がかすれた。

「そう、それ。新明くんよ!かっこいい子だったわよねぇ。もう少し若ければ、お母さんアタックしてたのに」

幸恵はパチンと指を鳴らしたかったのだろう、残念ながら皮膚の擦れた音しかでなかった。

それが少し可笑しくて、博子はクスリと笑った。

「もう、何言ってるのよ」
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