はぐれ雲。
部屋に戻るとコートを脱ぎ、そのままベッドに横たわる。

冷えた体は、どことなく硬い。


あれから、達也からの連絡はなかった。

溜息をついてうつぶせていると、勉強机の下に古びた段ボールがあるのに気付いた。

だるい体で身をかがめ、その箱を引きずり出す。

中からは、アルバムや表彰状、読書感想文、美術の時間に描いた絵などが次から次へと出てくる。

つい懐かしくて、ひとつひとつを手にとって、眺めた。

小さなアルバムを開くと、剣道を始めたばかりの自分が、カメラに向かってブイサインをしている。

ページをめくると、剣道教室の仲間との集合写真が貼ってあった。

もちろん亮二も写っている。

相変わらずの不機嫌そうな顔。

しかしその目は今と変わらない光のまま、大人になった博子をじっと見据えている。

そっと指で彼の顔を撫でてみた。

<あれでよかったのよね、ね?新明くん…>


『これから先、何かあった時は、おまえは俺が組織の人間だったということは知らなかった、そう言い通せ。あとは俺に任せろ。心配するな』

『俺が守る。おまえも、おまえの家族も…』

彼の言葉が蘇る。

そう言ってあの人は遠くを、果てしなく遠くを見るような目をした。


もしかしたら、こんな時が来るのではないかと、亮二と話を合わせていたのだ。

達也を守りたかった。

散々裏切るようなことをして、今さら何を言ってるんだ、そう思われてもいい。

ただ彼を守るためなら、どんなことでもしようと思った。

警察にだって嘘をついてみせる。

それが彼女なりの償いだった。

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