はぐれ雲。
「博子、俺は…えっと、ホームセンターに行ってくるから。ガムテープとか荷造り紐とか…とりあえずいろいろと買ってくるよ」

「達也さん…」

ありがとう、心の中でそう言った。


「ごゆっくり」

達也は浩介に軽く会釈すると、部屋を出て行った。

浩介も丁寧に頭を下げる。


彼と二人きりになって初めて、博子は浩介に話し掛けた。

「あ、座って。散らかっててごめんなさい。浩介くん、雰囲気が変わってるから、一瞬誰だかわからなかったわ」

博子は新しくカップを取り出すと、先ほど淹れたばかりのコーヒーを注ごうとして、手を止めた。

「そういえば、コーヒー苦手だったわよね。オレンジジュースでいい?」

ふと、亮二が甘めのミルクコーヒーが好きだったことを思い出す。

「え?あ、はい。すみません、じゃあオレンジジュースで…。あの、忙しかったんじゃ?」

珍しく浩介は大人しい。
ちょこんとリビングのテーブルの前に正座して、首だけをこちらに向けている。

「ううん、大丈夫。休憩中だったの」

博子はガラスコップに入れたジュースを彼の前に置くと、向かいに腰を下ろした。

「ごめんなさい、気の利いたもの出せなくて…」

申し訳なさそうに彼女がいうと、彼は大げさに「とんでもないっすよ」と手を顔の前で振った。

その表情があどけなくて、かわいい。

彼は前からそうだった。

思ったことをすぐに口にするけど、その言葉はやけに心の奥底にまで響いてくる。

素直なだけに、何の曇りもない言葉が出てくるに違いない。
< 401 / 432 >

この作品をシェア

pagetop