はぐれ雲。
達也は家を出た後、ただブラブラと歩いた。

気が付けば、博子と亮二の思い出の場所、そして彼女が命を断とうとした河原に来ていた。

春の気配があちらこちらで感じられる。

親子連れが土手の斜面でつくしを採り、キャッチボールをする少年たちは額に汗を滲ませながら、腕まくりをしている。

風も陽射しも、そして人の姿にまでも、春を感じずにはいられない。

「もうすぐ一年か」

達也の脳裏に、横たわる亮二の顔が浮かんだ。



あの日、搬送された病院の霊安室。

線香の細くて頼りない弱々しい煙が、あの新明亮二には不釣合いな気がした。

寒空の下で話した時の険しい顔が嘘のように、穏やかで静かな目元。

力の抜けた眉間が、まるで彼を別人のように見せる。

<新明…おまえ、本当はこんな顔をしていたんだな>

達也は手を合わせながら、彼を見た。

今までずっと鉄の仮面をつけて辛いとも寂しいとも言えず、決して弱みを見せまいと、ただ走り続けて…

こんなにも呆気なく逝ってしまうなんて。

<おまえはこれで満足だったのか?
本当にそれでよかったのか?>

答えるはずのない亮二に向かって、彼は問うた。


そこへ唯一の家族だという亮二の兄が駆けつけた。

桜井が簡単に事情を説明すると、彼は弟の顔を何度も撫でながらすすり泣いた。

「亮二、ごめんな、ごめんな…。帰ろう、一緒に帰ろうな。な?もう一人にはさせないからな」

そのあまりにも憐れな様子に、達也はたまらず廊下に出た。

途端に大きな泣き声が彼のところまで漏れてくる。


彼は壁にもたれて呟いた。

「バカだよ、おまえは…」

冷たい壁を、殴る。

「ほんっとにバカだよ」

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