はぐれ雲。
浩介が帰ってしばらくすると、達也がガムテープと荷造り用の紐が入ったビニール袋をぶらさげて戻った。

彼はあえて博子に何も聞こうとはしなかった。

そして彼女も自ら口にすることはなかった。


しかし、夕食時に達也が急にこう切り出した。

「一度信州に行くべきだと思う」

「え?」

突然のことに、博子は茶碗を落としそうになる。

信州には亮二の墓があることを、達也も事件に関わった捜査員なだけあって知っている。

「一度もあいつに手を合わせてないんだろ?」

箸を置くと、彼女はコクリと静かに頷いた。

お葬式はもちろん、その後も線香すらあげに行っていない。

「君もまだ心の整理がついていない」

「そんなことないわ!」

心を見透かされたようで、思わずきつい口調になる。

もう亮二のことで、彼を苦しめたくない、そう思うからだ。


「隠さなくていいよ、言っただろ?何もかも俺は受け入れるって」

「行く必要なんてないわ、信州なんかに…」

「行ってくるんだ」

「…達也さん」

そうは言っても簡単に「では行ってきます」という話ではない。

「でも、引越しの準備が」

「大丈夫だよ、もうほとんど片付いてるじゃないか」

「でも」

彼女なりに何か都合のいい言い訳を考えてみたが、思い浮かばない。

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