はぐれ雲。
電車とバスを乗り継いで半日。

やっと亮二が身を寄せていたという町に、喪服姿の博子は降り立った。

重厚な造りの旧家が立ち並ぶメイン通りを、一人歩く。

町のはずれの丘の上に、亮二が眠っている。

そこまで歩いていこう。

少しの間だったけれど、彼がここの風景を見て、ここの空気を吸っていた。

自分もそうしてみよう。

博子はまだ冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


墓地は思ったよりも小さく、すぐに新明家の墓を見つけることができた。

敷き詰められた砂利を踏みしめて、博子は墓の前に立った。

今でも信じられない。

あのぶっきらぼうで、無愛想な亮二がこんなに小さくなって。

もうあの声を聞くことができない。

もうあの照れたような笑顔を見ることができない。

永遠に…。

もってきた花束を抱きしめたまま、その場にしゃがみこんだ。

辛かった。

たとえ会えなくてもいいから、生きていてほしかった。

生きてさえいれば、同じ空を見上げて、お互いを想うことだってできたはずなのに。

「新明くん、ごめんね。私のせいで…」

博子はそっと墓石に触れた。

もちろん彼は何も答えない。

ただ石の冷たさが指を伝わってくるだけだ。


花と彼が好きだったミルクコーヒーを供えると、博子はそっと目を閉じた。

やっとこうやって彼に手を合わせることができた。

眠る亮二に話したいこともたくさんある、だけど今はあの顔を、声をただ思い出していたい。


どれくらいそうしていただろう。

誰かが近付いてくる気配に、博子は涙を拭いて立ち上がった。


「あのぅ、失礼ですが、葉山さん…でいらっしゃいますか?」

水を入れた桶と柄杓を持った男が、遠慮がちに訊ねた。

「え、えぇ、そうですが」

何年かぶりに「葉山」と呼ばれ、思わずどもる。

「やっぱり」

男はそう言うと、どこかしら嬉しそうに微笑んだ。

彼女はその笑顔をどこかで見た気がして「あの…」と口を開いた。


「あ、これは失礼しました。私は亮二の兄の、新明憲一といいます」

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