はぐれ雲。
博子は彼が線香をあげ、手を合わせる姿を横でじっと見る。
墓地で会った新明憲一に誘われるまま、彼の自宅の仏壇の前に座っていた。
憲一の妻の由美が、温かいお茶を出してくれた。
丸顔で、人のよさそうな笑顔を向けてくれる。
お腹がふっくらとしており、妊娠7ヶ月だそうだ。
「今日は母の月命日でして」
「そうでしたか」と博子も憲一にならって、手を合わせる。
仏壇には、亮二の高校時代の写真が飾られてある。懐かしさのあまり、食い入るように見てしまった。
「あいつの写真、こんなのしか残ってなかったものですから」
それに気付いた憲一が、横からそう付け加えた。
「私たち家族4人のうち、3人がいなくなってしまって、残されたのは私だけになってしまいました」
寂しそうに数珠を触る憲一に、博子は訊ねた。
「あの、お墓の前でどうして私が葉山だと?」
「ああ」と、憲一はまたあの笑顔を見せた。
「昔、一度だけ亮二にあなたの写真を見せてもらったことがありまして。その面影がまだ残っていらっしゃったものだから」
「新明くんが?」
意外だった。
あの亮二が自分のことを兄に言っていたとは思えなかったから。
「どうぞ、こちらへ」
憲一はそう言って、テーブルの前の座布団に座るように促した。
亮二とは正反対の、物腰の柔らかい男だった。
由美の出したお茶を勧めると、彼は笑顔で言った。
「それに、墓に供えてくださったあのミルクコーヒーですよ。あれを見て、あなたが葉山さんだと、ピンときました。ああ、葉山さん、葉山さんとお呼びしてしまってすみません。ご結婚、されてるんですよね」
「ええ。でも、葉山でかまいません」と短く博子は答える。
「こちらに越してくる前は、亮二はあのコーヒーが好きで、よく飲んでました。そのことを知ってる人なんて、限られてますから」
憲一はお茶を一口飲むと、仏壇の亮二の写真に目をやった。
「私と亮二は歳が二つしか離れていなくて、何かとよく張り合いました。喧嘩して、何日も口を全く利かなかったこともあります」
そして記憶を辿るように、天井を見上げた。
墓地で会った新明憲一に誘われるまま、彼の自宅の仏壇の前に座っていた。
憲一の妻の由美が、温かいお茶を出してくれた。
丸顔で、人のよさそうな笑顔を向けてくれる。
お腹がふっくらとしており、妊娠7ヶ月だそうだ。
「今日は母の月命日でして」
「そうでしたか」と博子も憲一にならって、手を合わせる。
仏壇には、亮二の高校時代の写真が飾られてある。懐かしさのあまり、食い入るように見てしまった。
「あいつの写真、こんなのしか残ってなかったものですから」
それに気付いた憲一が、横からそう付け加えた。
「私たち家族4人のうち、3人がいなくなってしまって、残されたのは私だけになってしまいました」
寂しそうに数珠を触る憲一に、博子は訊ねた。
「あの、お墓の前でどうして私が葉山だと?」
「ああ」と、憲一はまたあの笑顔を見せた。
「昔、一度だけ亮二にあなたの写真を見せてもらったことがありまして。その面影がまだ残っていらっしゃったものだから」
「新明くんが?」
意外だった。
あの亮二が自分のことを兄に言っていたとは思えなかったから。
「どうぞ、こちらへ」
憲一はそう言って、テーブルの前の座布団に座るように促した。
亮二とは正反対の、物腰の柔らかい男だった。
由美の出したお茶を勧めると、彼は笑顔で言った。
「それに、墓に供えてくださったあのミルクコーヒーですよ。あれを見て、あなたが葉山さんだと、ピンときました。ああ、葉山さん、葉山さんとお呼びしてしまってすみません。ご結婚、されてるんですよね」
「ええ。でも、葉山でかまいません」と短く博子は答える。
「こちらに越してくる前は、亮二はあのコーヒーが好きで、よく飲んでました。そのことを知ってる人なんて、限られてますから」
憲一はお茶を一口飲むと、仏壇の亮二の写真に目をやった。
「私と亮二は歳が二つしか離れていなくて、何かとよく張り合いました。喧嘩して、何日も口を全く利かなかったこともあります」
そして記憶を辿るように、天井を見上げた。