はぐれ雲。
憲一は声を詰まらせた。
「母が亡くなって、必死で、半年かかって亮二を探しました。じゃあ、あいつ、暴力団の幹部になってるじゃありませんか。
…自分を責めました。
兄貴である自分が、あいつをもっと守ってやれば、こんなことにならなかったって」
湯飲みを包み込んだ手が、カタカタと震える。
「二人きりの兄弟だったのに…」
悔しさが彼の全身に滲む。
「あいつは誰よりも繊細で、優しいやつだった。曲がったことが大嫌いなやつだった。それなのに、あんな世界に亮二を追い込んだのは自分だって…。結局、そのことを謝る前に、こんなことになってしまって」
憲一は真っ赤な目で、遺影を見つめた。
<そう、彼は誰よりも真っ直ぐで、傷付きやすくて、それでいて、誰よりも優しかった>
胸が熱くなる。
「母が亡くなったと知らせた時、私は亮二に言ってしまったんです。墓参りにも、線香もあげに来てくれるなって…」
彼は目頭を押さえた。
「その時、あいつ、目を一瞬伏せたんです。辛かったんだと思います」
「……」
「酷い兄貴ですよね」
「いいえ、そんなことありません。彼は…新明くんはわかってましたよ。お兄さんがそう言わざるをえなかった理由も、その気持ちも…」
憲一は泣いていた、声を殺して。
「それがわからない新明くんじゃありません」
<どうしてだろう。どうしてこの兄弟なんだろう。神様はどうしてこの二人にこんな思いをさせるのだろう>
「クラゲの話…覚えていらっしゃいますか?」
博子は首を少しかしげて訊いた。
「え?」
突然の言葉に、憲一は顔をあげる。
「彼が話してくれたんです。
昔、海水浴をしていて、クラゲに刺されたことがあったって。痛がる自分をお兄さんがおぶって、砂浜を走ってくれたって」
「あいつ、そんな昔のこと…」
「その話をしていた時の新明くん、どこか幸せそうでした」
「…う…亮…」
再び憲一は声を詰まらせた。
「母が亡くなって、必死で、半年かかって亮二を探しました。じゃあ、あいつ、暴力団の幹部になってるじゃありませんか。
…自分を責めました。
兄貴である自分が、あいつをもっと守ってやれば、こんなことにならなかったって」
湯飲みを包み込んだ手が、カタカタと震える。
「二人きりの兄弟だったのに…」
悔しさが彼の全身に滲む。
「あいつは誰よりも繊細で、優しいやつだった。曲がったことが大嫌いなやつだった。それなのに、あんな世界に亮二を追い込んだのは自分だって…。結局、そのことを謝る前に、こんなことになってしまって」
憲一は真っ赤な目で、遺影を見つめた。
<そう、彼は誰よりも真っ直ぐで、傷付きやすくて、それでいて、誰よりも優しかった>
胸が熱くなる。
「母が亡くなったと知らせた時、私は亮二に言ってしまったんです。墓参りにも、線香もあげに来てくれるなって…」
彼は目頭を押さえた。
「その時、あいつ、目を一瞬伏せたんです。辛かったんだと思います」
「……」
「酷い兄貴ですよね」
「いいえ、そんなことありません。彼は…新明くんはわかってましたよ。お兄さんがそう言わざるをえなかった理由も、その気持ちも…」
憲一は泣いていた、声を殺して。
「それがわからない新明くんじゃありません」
<どうしてだろう。どうしてこの兄弟なんだろう。神様はどうしてこの二人にこんな思いをさせるのだろう>
「クラゲの話…覚えていらっしゃいますか?」
博子は首を少しかしげて訊いた。
「え?」
突然の言葉に、憲一は顔をあげる。
「彼が話してくれたんです。
昔、海水浴をしていて、クラゲに刺されたことがあったって。痛がる自分をお兄さんがおぶって、砂浜を走ってくれたって」
「あいつ、そんな昔のこと…」
「その話をしていた時の新明くん、どこか幸せそうでした」
「…う…亮…」
再び憲一は声を詰まらせた。