それでも君が。


「わわっ……は、離してよ!」





腕をガッチリと掴まれ、私は後ろに身を引こうとした。



だけど、何せ後ろには傘立て。



それに当たり、ガシャッという音が響いただけだった。



藤堂君は、そんな私をあざ笑うかのように、グッと顔を近付けてくる。



蒼君のとは正反対の、少しキツめの香水の匂いが鼻を襲い、つい眉が歪む。



高い鼻が目の前に来たと思ったら、彼はやっぱり無表情で口を開いた。





「聖母みたいなこと言ってんじゃねぇよ。純情ぶんな。てめぇも彼氏いるんだろ?」


「なっ……! 蒼君は、蒼君はそんなことっ……」


「バァカ。男なんてな、どんなに綺麗な顔してたって、結局考えることは一緒なんだよ」


「……蒼君は違うもん」


「ふーん。なんだ、じゃあんたまだ処女なんだ」


「しょ……! 悪い!?」


「悪いっつーか、彼氏かわいそー」





唇だけをニヤリと歪める藤堂君。



──そう言えば、澪ちゃんにも言われたな……蒼先輩、我慢してるんじゃないの? って。



私はつい、彼から顔を逸らし、足元に視線を落とした。



か……可哀想?



蒼君が?



そんな……




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