オトナな初恋
病院を二人で出てすぐだった。
駆け寄ってくる人影。


『パパ!!』


『雄太、熱は出てないか?』

雄太君を抱っこして、おでこをくっつける木下常務。

『思ったより早く仕事が片付いて。急いで来たんだ。
桜井さん、ありがとう。』

「いいえ。これ、借りてた合鍵お返ししますね。」



辺りを見るけれど、他に誰もいない。


『どうかした?』

「い、いえ!…それじゃあ、私失礼します。」

『待って!せっかくだから、3人でご飯でもどう?
今日のお礼に何かご馳走するよ。』

『やったあ!僕もうおなかペコペコ!』


「あの…私はここで失礼します。

『どうして?雄太も3人のほうが喜ぶし…』

「ちょっと、行きたいところがあるんです。」

『じゃあ、一緒に…』

「拓海さんの所へいきたいので、ここで失礼します。」



そう言って私は駆け出した。後ろから雄太君が私の名前を叫ぶように呼んでいるのが聞こえる。





もしかしたら今日も昨日のように、拓海さんが迎えに来てくれるのかな。なんて期待していた。
けれど、病院には木下常務しか来てなくて。
木下常務が仕事を終えてきたのなら、拓海さんももう終わってるはずなのに。

連絡が来ないだけでこんなに不安になるなんて。



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