【キセコン】とある殺し屋の一日
第二章
藍が訓練場としているのは、色町の家から一時(いっとき)ほども走った、だだっ広い野原である。
かつては野辺送りの地だったらしく、都合の良いことに、広範囲にわたって人がいないのだ。

いまだに辺りに人骨が転がるところになど、誰も好きこのんで来ない。
おあつらえ向きの、桜の大木もある。

「う~ん、墓場の桜は、綺麗ねぇ。こんな綺麗な桜の下で眠れるなら、野辺送りも、悪いもんじゃないわね」

与一の背から飛び降り、藍は散り始めの桜を見上げて微笑む。
一方与一は、その桜の木に寄りかかって、ぜぃぜぃと肩で息をしていた。

一時の間、全速力で走り通しだったのだ。
常人には、できない業である。

が。

「もう、情けないわねぇ。これぐらいでそんなへろへろになってちゃ、駄目じゃない」

藍はぽんぽんと与一の肩を叩く。
藍を負ぶって全速力で一時も走るなど、とてもできることではないのだが。
これも藍言うところの『殺し屋の訓練』らしい。

「・・・・・・藍さんは・・・・・・俺を負ぶって、ここまで走っても・・・・・・どうってことないってことですか・・・・・・」

相変わらず荒い息を吐きながら言う与一に、藍はきょとんとした。

「そんなの、無理に決まってるじゃない」

がく、と与一の肩が落ちる。
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