もうひとりの…
「順調だった。まだ心をオープンにできるほど立ち直ってはいなかったけど、忘れたい一心で、がむしゃらに仕事をこなしていたわ」

高校を卒業するのと同時に、彼女はタレントとしても活動もスタートさせる。

きらびやかな世界―

憧れて入ったわけではないが、孤独に打ち負かされないように彼女は躍進し続けた。

しかし、ある出会いが彼女の運命を大きく変えることとなる。

「真奈美は、ある俳優さんとの共演がきっかけで恋に落ちたの」

その男は、芸能界でも指折りの名優だった。真奈美が初めてドラマに出演した時に、父親役として共演したその男に、彼女は次第に惹かれていったのだ。

彼は、今まで孤独と戦ってきた真奈美を優しく包んでくれた。今まで抱いていた忌まわしいトラウマを溶かしてくれるかのように接してくれたのだ。

あの時、自分を犯した養父とたいして歳は変わらないはずだ。普通なら、絶対に拒絶してしまうはずなのに、彼は本当の自分をさらけ出すことができる、唯一のひと―

二人が深い関係になるのに、時間はさほどかからなかった。



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