ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ミア、何だって?」

「危険が伴うし、不明確な部分が多すぎるって。」


これはおそらくミアの本音だろう。
しかし、クロハに隠した部分があるのも本当だった。
ミアはこうも言っていたのだ。
『…私は呪いが解けなくても構わない。誰かを危険に晒してまで解きたいわけではない。』と。


ミアは心優しいから、嫌なのだろう。誰かが精神的に、そして身体的に傷付くのが。
でもあたしは、傷付くことなんて怖くない。
あたしが傷付く代わりにミアが呪いから解放されるなら…それで。
あたしが守りたいのはミアだけなのだから。


「…ミア、あたしは行くわ。
手掛かりが少ないのなら、探せばいい。」


ジアの心は決まっていた。
剣の腕を磨いていたのだって、いつかこの村を出て戦いの中に身を投じる可能性があるかもしれないって思っていたからだ。


「このままあなたの一生を『猫』で終わらせるつもりはないの。
そうと決まれば、明日には出発するわ。
朝…隊には手紙を置いていく。あ、あとメアリーおばさんたちにはクロハから…。」

「おれも行く。」

「え…?」

「ジアならそう言う気がしてたから。
おれがいなくても家は大丈夫だし。兄さんたちもリルもいる。
おれの知識は少なからず役に立つはずだ。」

「それは確かにそうだけど…。でもっ…クロハを巻き込むわけには…。」

「巻き込まれたなんて思っちゃいねーよ。」

「クロハ…。」

「変えたい明日、あるんだろ?」

「え…?」

「その『明日』がお前と同じだけだよ、ジア。
だから…そのためだけにおれは生きる。」


クロハの目に逆らえないのは知っていた。
だからジアもゆっくりと頷いた。

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