ハルアトスの姫君―君の始まり―
触れた箇所が異常な程に熱い。触れれば触れるほど、火傷がさらに広がっていくような痛みが触れた箇所を襲う。それでも今ここで離してしまえばそれこそ好機は完全に失われる。


「キースっ…あ、あたしっ…は、離れっ…。」

「…だめだよ、今離れたらもう〝ジア〟は戻ってこない。」

「え…?」


抱きしめたまま、その耳元で囁く。彼女の背中に回した手に力を込める。
今、俺と彼女を隔てるものは何もない。


「ゆっくり息をはいて…心を落ち着かせて。君の身体はいきなり戻って来た魔力に驚いているだけなんだ。」

「…すぅ……はぁ…。」


彼女の背に右手の人差し指を立てる。そして背に魔力封印の紋を描く。母親に最後に教えてもらった魔法だ。俺はシュリ様のようには魔力を封印できない。血で受け継いだ母親の〝紋〟が必要なのだ。
今、彼女の中で暴れ回る魔力を彼女の心臓に封じる。そしていずれ、成長と共に少しずつ魔力を解放していく。そうすれば膨大すぎる魔力でも徐々に馴染んでいくはずだ。
術での紋を書き終え、最後に円で囲んだ。封印を発動させるための言葉を発すればそれで封印は施される。


「〝ヴィータル・セーズ〟」

「っ…。」


ジアは一瞬、腕の中で苦しそうに身をよじるがそれは仕方のないことだった。心臓という一点に多大な魔力が封じられるのだ。…俺の魔力と同等の分だけ。俺の魔力を超える分は身に馴染ませてもらうしかない。それも今すぐに。


「…力の封印など…!私の邪魔をするな…!」


真っすぐに再び飛んでくる炎の渦。
咄嗟に身体を離し、背で庇った―――はずだった。


長い金色の髪がすっと眼前に広がった。




「もう誰も…傷付かせない!」

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