ハルアトスの姫君―君の始まり―
このことの方がよっぽど問題で、それこそおれが直接的に関わっている問題だった。


「…自覚はしてんだよ、ちゃんと。」


自覚はしている。ミアへの想いの大きさも、その想いの名も。
だが、こんな風に立場を明確にされるとやはり動けない。
言いたくはないが、まさに〝身分違いの恋〟だ。


身分なんて壁でもなんでもないと思っていた。物語の世界ではみんな、やすやすとその壁を越えていく。時には身分を捨て、時には実は高い身分の者でしたなんていうオチがついたりなんかして。


でもそれはあくまで物語の世界なのだと痛感する。


身分が違うなんてことで自分が悩む日が来るとは思わなかった。
確かにミアの生まれははっきりと分かっていたわけじゃない。でもまさか、王家の姫だなんて思うはずもない。


「…ミアに姫っつー肩書きを捨てろとも言えねぇし…かといっておれが王になれるはずもねぇし…。」


王の器であるわけがない。おれは純粋に庶民だ。城下にも入らない、もっと外れの村、ジェリーズの薬屋の末息子だ。そんなおれが生粋のお姫様に手を出せるはず…


「ねぇよ。万に一つもねぇ。」


ない、のに。
そう思えば思うほど、想いだけがひたすらに募っていく。
言ってしまえば良かったとさえ思う。


窓辺を離れ、ゆっくりとドアに近付いた。
ドアを背にして、白い天井を見つめる。


「…好きだよ、ミア…。」


誰もいない部屋で一人、呟いた。
―――はず、だった。





「…本当…に…?」

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