ハルアトスの姫君―君の始まり―
ぼんやりと窓から城下を見下ろす。
…ただの小庶民であるおれは、本来こんな場所にいていいはずがない。ちなみに通されたのは客室だ。それもかなり上等な。きっともう二度と、ここを訪れることはない。
―――多分、まだ城全体が安定していない上に、起こったこと全てを王家が把握できていないからこそおれ、そしてシュリやシャリアス、キースをここに置いているのだろう。


…じゃあ、全てが終わったらどうなるのか。
こんなこと、考えたくもない。
考えなくても答えは一つだからだ。





〝在るべき場所に在るべき人が戻る〟
それがこの後待ち受ける未来だ。





人間が魔法使いを争いに引き入れたことが、根本的にはジョアンナの全ての破壊衝動を引き起こした。
となれば魔法使いと人間はやはり互いを認知しながら(この場合、認知するのは王家といった上層部だけのような気もするが)、それでも別の場所と時間を生きるべきだという結論に至るだろう。
現在、シュリとシャリアス、そしてキース以外に魔法使いがどれほどいるのかは分からないが、やはり生きる時間軸は異なる。一見すると人間と大差はないが、老けずに在り続ける魔法使いを人間は相容れることなどできるのか?


…って、こんなことは実際問題、おれには手の出しようもない、途方もない規模の問題だ。それに、どれだけ考えようともおれの出る幕なんて当然ながらない。


城にいると嫌というほど感じてしまう。


あんなにも近くにいた〝ミア〟はもう、あの頃の〝ミア〟じゃない、ということを。


ずっとはかりかねていた距離が、ここに来て明確化している。

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