ハルアトスの姫君―君の始まり―
思わず声が震えた。止まったはずの涙がまた込み上げてくる。


「あたしは…たくさんの嬉しい気持ちをキースに貰った…。
生まれて初めて、守られている自分を感じた。…最初は情けなくてなんだか嫌だったけど…でも、それと同じくらいどこか安心してた。
猫の姿を見せるのも…本当はすごく怖かった。拒絶されたらどうしようって…本当に思った。
でもキースは気付いてくれた。あの日の猫がミアじゃなかったこと。猫のあたしと話そうとしてくれた。あたしが傷付かないように。
もしかしたらキースにとっては些細なことかもしれないけど、でもそういう些細な優しさにあたしは何度も救われた。何度も笑顔になった。泣きたくなるくらい…泣けちゃうくらい嬉しかった。
だからキース、キースと出会えてあたしは幸せだと思える。
…今こうして全てを話してくれたことも、嬉しい。
キースにとっては辛いことだって分かってるし、あたしが受け止めきれてないことも分かってるけど…でも、ちゃんと受け止めていきたいって思うし、もうこれ以上悲しい想いを重ねてほしくない。
…それと、もう勝手にいなくなって…ほしくない。」


最後はもっと声が震えた。
そこまで言い切るとキースが苦笑いを零す。


「…ジアは本当に…強いよ。
俺のほしい言葉を…ちゃんとくれる。」

「キースだってあたしのほしい言葉をくれたよ?」

「そういうところが、だよ。ジア。」

「え?」

「…少し、時間が欲しいんだ。
君の隣に、自信を持って立つために。」


キースの目が真っすぐにあたしの瞳を見つめている。

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