私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
銭湯からの帰り道、夏子さんはこんな質問を口にした。

「象の墓場って知ってる?」

「象の?」

「そう。象の墓場」

私はそれを知らなかった。首を横にふると、夏子さんは苦笑いを浮かべた。

知識の浅さを笑ったのではないという。年代の差を感じたそうだ。

夏子さんの年代では、わりと有名な話だからと説明してくれた。

「象はね、自分の死期を悟ると、ひっそりと群れを離れて墓場に行くの。そしてそこで静かに眠りにつくんだって」

私はなぜ、このタイミングでこんな話を切り出したのか、夏子さんの思惑がわかりすぎるほどわかる。

火照った足元を冷えた夜風がすり抜けた。

「私の墓場はどこなんだろうって考えちゃうんだけどさ、その時が来たら……」

「聞きたくないよ、そんな話」

その話の先は切なすぎる。胸にためこんだ想いに押しつぶされてしまいそうだ。

夏子さんは、そんな私を見つめて口を閉じた。

言いたいことは理解したと思ったのだろう。話題を切り替えて、声を無理やりはずませた。

「いまの現場は今月いっぱい安泰だからさ、それが終わったらパーッと遊びに行かない?」

それは思いがけない提案だった。
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