AKANE
 フェルデンの言っていることが一体何を意味するのか、ユリウスにはすぐに理解できなかった。
 それをもどかしく思ったのか、フェルデンは口調を早めた。
「昨晩、おれがアカネに会ったと話しただろう? その時に、暗がりの中で何者かが現れてアカネを連れ出して行った。そいつは、アカネの名を口にしていた。それに、自分はアカネの友人だとも・・・」
 ユリウスはフェルデンの茶の瞳を見つめ返した。そこには、もはや一点の曇りもなく、真実だけを追い求める強さが宿っていた。
「つまり、こういうことですか。そのロジャーという男と、殿下の前に現れた暗がりの中の男は同一人物だと。そして、そのロジャーこそが貴方が探しているアカネという人に何らかの関係を持っている」
 ロジャーがこの昨晩の嵐で死んでいなかったとなると、朱音も生きてすぐ近くに居る可能性が高い。
 フェルデンはロジャーなる男を目にしたことで、朱音にまた一歩近付いたことへの強い手ごたえを感じていた。
「きっと、この国のどこかに、それもおれ達のすぐ近くにアカネはいる!」
 
 しかし、ユリウスはまだ気付いてはいなかった。
 ボウレドで出会った風使いのクリストフ・ブレロが、まさかフェルデンの言うロジャーなる人物と同一人物だという事実を・・・。      
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