AKANE
「おかえり、今度は何を見てきてくれたの?」
 にこりと微笑むと、クイックルは身体を朱音の頬に擦り寄らせた。
「彼女はルイの様子を見てきてくれました。彼は変わらず無事だそうです。それに、誰か信用できる者を見つけたようで、その者と一緒にこちらへ向かっているみたいですよ」
 ほっと安心したように、朱音は胸を撫で下ろした。
 海に投げ出された後、はぐれてしまったルイのことをひどく心配していた朱音だったが、どういう訳かクリストフが彼は無事に生きていると話したので、朱音はそれを信じていた。
 気を失っていた朱音が翌朝目を覚ました時には、既にこの宿のベッドの上だった。
 そしてクリストフは目覚めたばかりの朱音にまず謝罪したのだ。
“貴女を危険な目に遭わせたこと、本当にすみませんでした”
と。そして、あの荒れた海の上で、クリストフは目にしたものを朱音に丁寧に話して聞かせた。
 クリストフが折れたマストとともに海に流された後、海に投げ出されたルイと朱音が見えたこと。助けに行こうとしたところへ、リーベル号の甲板から乗り組み員の一人が飛び込み、流されたルイをうまくマストの残骸の上に引っ張りあげる瞬間を目にしたことを。そして朱音はアザエルの手で岩場へと引き上げられたことも。
 しかし、謝らねばならなかったのは朱音の方だった。
 あれ程客室を出るなと釘を刺されていたにも関わらず、朱音は自分勝手にも部屋を出てしまった。そのせいでクリストフやルイがこんな危険な目に遭ったことを考えると、償っても償いきれない思いでいっぱいになった。
 クリストフは一度も怒らなかった。
 こんなにも危険な目に遭わされたというのに、何の見返りもない朱音の旅に、友達だからという理由で付き合い続けてくれている。
「ルイが無事で本当に良かった・・・。クイックル、ありがとうね」
 白鳩はホロホロと嬉しそうに喉を鳴らすと、バサバサと翼を開く仕草をした。
「クリストフさん、あなたはひょっとして、もう何もかもを知ってるんじゃない? わたしが一体誰なのかということも、この旅を続けている本当の理由も・・・」
 朱音は気付いていた。ふとした瞬間に感じる、彼の朱音に対する態度や言葉の僅かな違和感に。
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