AKANE
「あれは事故などではありません。おれはあの時確かにアカネの命を引き換えに現れたあの少年王を心の底から憎いと思い、殺意を抱いた。陛下・・・。国家をこのような危機へと陥れた罪はあまりに大きい・・・。適切な処分を・・・」
 信じられない事実を知ってしまい、ヴィクトル王は頭を抱え込んだ。
 ユリウスも、やるせない思いで首を左右に振った。
「フェル・・・、頭を上げなさい・・・」
 それでも頭を上げようとしないフェルデンに、ヴィクトルは構わず言葉を落とした。
「ゴーディアの突然の裏切りの理由はよく分かった・・・。そして、停戦中の国王の首に手を掛けてしまったそちの過ちも・・・」
 フェルデンは、どんな処分も受けるつもりでいた。それがどんなに辛く苦しいものであったとしても。
「しかしだ、今はそうも言っておれぬ。ゴーディアからは既にこちらに軍が向けられておると情報が入っておる。我国もみすみすやられる訳にもいかぬのでな、準備でき次第こちらからも軍を出すつもりでいる。そちの指揮無しで騎士団は動くまい。処分を考えるのは全て片付いてからだ」
 ユリウスは、ヴィクトル王の賢明な判断に唯々感謝した。
「それにな、本来は国王のわたしが言うべきことでは無いのかもれぬが、そもそもはアカネを我領土内から連れ去りその命を奪ったことや、我国からの使者に刺客を送り込み、飲み物に薬を混入させる等の所業を行ったのはゴーディア側ではないか。我国とて、我慢の範疇を超えておる。遅かれ早かれ、きっとこの戦は再開しておっただろう」
 そうは言うものの、このような事態を招いたのが自分かもしれない、というフェルデンの罪悪感はどうにもならなかった。今はサンタシの為に、どこまで自分が働き、尽くせるかということだけが、唯一の罪滅ぼしへの道として残されていた。
「陛下、この先おれは陛下やサンタシの為ならば命を投げ売る覚悟です。おれの過ちは消えませんが、今一度おれを信じてください」
 フェルデンは頭を下げたまま、力強い声で誓った。
「何を今更・・・。わたしがそちを疑ったことなど今まで一度たりともない。そちは、あのディートハルトが認めた男ではないか。今もこれからも、そちの働きに大いに期待しておる」
 兄であるヴィクトル王の言葉を、フェルデンは静かに胸に叩き込んでいた。 

< 247 / 584 >

この作品をシェア

pagetop