AKANE
フェルデンは朱音の存在を感じることについて、ヴィクトル王に話すことはしなかった。それは、あまりに信憑性に欠ける内容だったことにある。
ユリウスには話していたが、それをヴィクトル王に話したところで、空想や想像という不確定で曖昧なものを好まない彼はきっと信じないだろう、とフェルデンは思った。
「フェルデン殿下、どうしてあんなことを言ったりなんかしたんです!」
ユリウスがひどく不機嫌な顔でフェルデンに抗議した。
「どうした?」
あっけらかんと答えるフェルデンに、ユリウスは更に噛み付く。
「どうした? じゃありませんよ! クロウ王の首を絞めたことをどうして馬鹿正直に陛下に話したんです!? あれじゃあ誤解されても仕方ないじゃないですか!」
フェルデンが変わらぬ調子で返す。
「誤解も何も、全て本当のことだ。どうして陛下に隠す必要がある?」
返す言葉が見つからずに、ユリウスは足元に視線を落とした。
「じゃあ・・・」
ぽつりと零したユリウス。
「じゃあ、なんでアカネさんのことは話さなかったんです?」
少し黙った後、フェルデンは答えた。
「あのヴィクトル・フォン・ヴォルティーユ陛下が、死んだ筈のアカネが別の姿で生きていると話したところで信じると思うか? あの人は目に見えるものや確かな情報しか信じない、そうだろ?」
うっと言葉に詰まり、ユリウスはぽりぽりと鼻頭を小指で掻いた。
『コンコン』
外からのノックの音に、フェルデンが入室を許可する。
医療箱を手に入室してきたのは、高齢の王族直属の医師、フィルマンであった。