AKANE
 朱音はスキュラにしたのと同じ要領で、ファウストの飛竜の背に自らの手を翳した。
 フェルデンは、自分の目を疑うような光景にはっとした。
 朱音が乗り移った直後、赤い飛竜の背に、あの黒い煙のようなものが集まり、あっという間に巨大な翼へと形づくったのだ。ふぁさりとそれが羽ばたいたのは、すでに地面から大人三人分程の距離であった。真下にいた人々は腰を抜かして身動き取れずにいる。赤い飛竜は優雅に上体を起こし、再び上昇を始めた。
(あれは・・・)
見上げると、スキュラの背にも同様の黒い翼が広げられている。それはまるで、ルシファー降臨の際の黒翼のようであった。
 なんとか地面へ激突を回避した朱音と飛竜であったが、すぐ近くで物凄い炎風と音が響き、ほっとする暇もなく振り返った。ファウストが例のごとく、地面に叩き付けられるのを回避する為に、地上へ向けて炎を噴射したのだ。その巻き起こった熱風を利用してうまく地に着地するところであった。
 もとは広場だったであろうその場所では、破壊された噴水の残骸が黒くなって散らばっていた。この場所に無関係な人達がいなかったことだけを朱音は切に願った。
 ファウストの乱れた真っ赤な髪が、燃え盛る炎のごとく揺らめいている。その口には既に笑みは消え去っていた。
「ぬるい・・・。アンタ、まじでぬるいぜ。それだけの魔力を持っていたら、俺ならもっと有効活用するぜ」
 ファウストは両の手に真っ赤な炎の玉を作り上げると、その二つを頭上で合体させて、更に大きな炎弾に成長させた。
「クロウ!! 逃げろ!!」
 赤い飛竜に向けて放たれた強い威力を持った炎弾に、朱音は慌てて黒いベールを被せようとするが、身体の大きな赤竜全体を保護するにはほんの僅かに時間が少なかった。
< 464 / 584 >

この作品をシェア

pagetop