AKANE
「くそっ!! これで済むと思うなよ!! 今に創造主の罰が下されるぞ!!!」
 化け物に成り下がってしまったブラントミュラーの負け惜しみが空しく響く。いつの間にか、あれ程増殖していたマブも一匹残らず消えていた。
「ブラントミュラー、よくも父上の身体を好き勝手に使い、こんなにしてくれたね。いくら寛大なぼくでもこれだけは許せないよ」
 クロウは首だけのブラントミュラーを犬にでも話しかけるように屈んで言った。
「今頃貴方の本体を僕の仲間が見つけている頃だ。知っているよね? 死人に魂を入れ替える禁術を行ったときのリスクは・・・」
 血の気をすっかり失ってしまったブラントミュラーはぱくぱくと喘ぐように、「やめろっ、やめろっ」と何度も悲鳴を上げた。首から下の身体になって尚、なんとか背中の剣を抜こうとその手に武器を創り出そうとするが、その手さえもフェルデンの短剣に地面に縫い止められ、動かせなくなる。
「一体どうなるんだ、クロウ?」
 実際、魔術とはあまり関わりを持たずして育ったフェルデンには理解の範疇を超えたものだったこともあり、そのリスクとやらが想像もつかなかった。
「還る肉体を無くした魂は、永久に無の世界で彷徨うことになる。誰も何も存在しない真っ暗で孤独な世界でね」
 ひいっと悲鳴を上げるブラントミュラーにくすりと笑いを漏らすと、二人は哀れな男を見下ろした。
「それはゾッとする話だな」
 フェルデンは肩を竦め、少年王に笑いかける。
「な!? おかしいゾ!? どうなってる、何も見えない!! 何も感じない!!」
 二人は建ちそびえる美しき白亜城を見上げた。
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