AKANE
「お気遣いありがとう。けれど、部屋を貸して貰えるだけで十分だよ」
 フェルデンは少年王に優しい笑みを向けた。それは、友に向けるものそのものであった。
「ライシェル殿にも部屋の案内を」
 侍女にそう告げると、フェルデンはもう一度クロウに向き直った。
「明日の正午、いよいよ友好の儀を執り行うのだな・・・」
 クロウは真っ直ぐにフェルデンの凛とした表情を見つめた。
 この日を、どれ程待ち望んできたことか・・・。
「ああ、そうだね」
 二大国の提携を機に、レイシアのあらゆる紛争が激減することを期待して止まない。


 その晩、クロウは美しく生まれ変わりつつあるサンタシの王都を客室の大きな窓辺から眺めていた。よく晴れた月の綺麗な夜だ。
王都の東には、聖なる地、セレネの森が広がっている。幸いにも、この地だ
けは戦の犠牲にならず美しいままそこに存在していた。
あの森にある鏡の洞窟から、彼女はこの世界へとやって来たのだった。何も
知らない純真な異世界の少女は、ひどく混乱し、そして嘆いたに違いない。こちらの都合で強制的に連れて来られた上、歳若い人生を無理矢理に奪われたのだ。きっとこの世界と自分のことをひどく憎んだに違いないとクロウは思った。
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