3 year 君と過ごした最後三年  (version.mystery and suspense)


――このバレッタは、誰のもの。


――誰が選び、勧めたもの。



ふたりが家に帰ったのは昨日、午後六時半。街はすでに雪に覆われ、その機能を大きく失っていた。


バスのダイヤは乱れ歩道、側溝は影を失くし、人々が重く呼吸を吐き悄然去っていく。


子いぬ似こきつねのぬいぐるみを手にしたふたりは、数倍の時をかけ家へもどっていた。


纏わりつく雪に、坂の丘の街は覆われていた。


そのあと彼が、ふたたび街にバレッタを買いに街に行ったとは考えられるだろうか。


映画のお礼なら、きっと今日になってから買ったことになるのではないだろうか。


今朝、裕也はわたしのしらない誰かといっしょにバスに乗り込んでいっていた。


互いに視線を交わせ交わし、女の人とどこかへとむかっていっていた。


隆起する喉。それをとおし繋がるふたつの唇。


触れられた手。それをとおし繋がるふたつの想い、思惑。


あの女の人が彼にこのバレッタを勧めたのだろうか。ふたりはこれを買いにいったのだろうか。


わたしは裕也をみる。彼はうつむき視線をそらしおとしている。


わたしはバレッタに触れる。手にと触れてりうつしてみる。


スチール製の金具が、時もなく手のなかで熱を失い消えていく。


呼吸が浅く、頻回した。




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