3 year 君と過ごした最後三年 (version.mystery and suspense)
「オレさ……」
彼は突然そういい沈黙をさいた。
「な、なに」
わたしは思わず苦しくなるような、呼吸が止まるようなそんな感覚を覚えた。
「オレさ、唯嵩高校受けようと思うんだ」
うつむき彼はつづけいう。
「それで?」
「遥香もいっしょに受けないか。もちろんおまえが嫌でなくて成績とかあえばの話しなんだけどさ……」
「いかさ……」
思わず言葉を失くした。
唯嵩高校は偏差値を五クラスでわけるとしたなら四の上方にあたるのだろう。わたしの成績は三の下方に留まっているにすぎない。
確かに互いの成績を去年までは知り得ていた。いくらも変わらぬ成績だった。
しかし、人は追い込み上げ過ぎていく。その流れは人ひとりの道を変えるなど、容易い力を持ち得ている。
人は、虚空の空を見上げてもそれを上ることはできないのだろう。礎(いしずえ)のない塔には、幻の虚像しか建たないのだろう。
心臓が時を、流れを刻むよう激しく動いていく。想いが揺れていく。
彼の視線はどこにも向かわず、わたしだけを見詰め停止している。
家までに残る数十秒。時がひとつ浮かんでは沈んでいく。産まれてはその生を終え、消えて失われていく。