マザーレスチルドレン

最悪の世界恐慌

「それでさあ、いきなり世界恐慌、あっという間に異常気象と家畜病流行で食料難がきて、食べ物が消えた」


「うん」


「地獄だった、人間食えないっていうのが一番こたえるな、そこら辺に生えてる草は全部食ったよ。そして犬や猫も食った。酷いだろ、でも仕方なかったんだ。生きていくためには」


「そうなんだ……」


「うん、食べ物がなくなって、食べもん取り合いで殺し合いもしょっちゅう起こってた」


「……」


「だからさあ、今の方がましなの。確かに今だってろくに仕事もないけど、今の政府は国民の最低限の生活は保証してくれてる。低所得者にはフードスタンプ。


就職難で就労できない若者には支援金、それ以外の失業者や年寄りや病人には失業手当とベーシックインカム(基本所得保障)。


一応ギリギリの生活だけど飢え死にすることはなくなった」


「そうだね、ましかな……」


「そうそう、世界恐慌の頃、前の政府はさ、膨れ上がる失業者対策として何の社会保障も提案できなかった。だからあの頃は自殺者が一気に増えたんだ」


「うん、でもね。ホームで働いててると毎日死んでいくじゃん、入居者がさ。これでいいのかなって思うよ。人の一生ってなんなのかなって……」
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