マザーレスチルドレン
「はあ、何の先生かは知らないです、


みんな先生って呼んでっから、ここじゃあ」


すまなそうにカジがいう。


「いい加減だな、で、ここが少しおかしいだろ、あの人?」



オオクボは自分の頭を指さしてカジに訊く。


「さあ、確かに少し変だけど、別に害はないし、


ちゃんとお金も払ってるし……」


「まあいい、とにかく、ここいらで噂になってるんだよ、


連続殺人の犯人があの男じゃないかって」


「はあ、あの女殺しの?まさかあ、


先生がそんな事するわけないですよ」


カジが笑う。


「そんな事はわからないだろ、


みんな気味悪がってる、大体何者なんだ?」


「はあ、三ヶ月くらい前かな、ふらっとこの店にやってきて、


ここの裏のウイークリーマンションに住むようになって―― 」


オオクボはカジの話を黙って聞いている。


「お金はたくさん持ってるって、マスターはいってたな、


今一番の上客だって、それで俺たちにも気前よく奢ってくれるんで―― 」


オオクボは手を振ってカジの話をさえぎる。


「もうわかった、とにかく明日、黒服のところに


行って報告しとくから、マスターにそう伝えておいてくれ、


店潰されたくないなら、今のうちに追い出すことだなって」


「はあ……」


途方にくれるカジを残して、


オオクボは肩を怒らせながら去っていった。
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