井上真緒編
最後に真緒が言った言葉には、チアキは驚いた。なぜかといえば、それは自分が疫病神だったからだ。というより、貧乏神といったほうがいいかもしれない。貧乏神のくせに、神を名乗るのには、貧乏神にも神がついているという単純な理由からだろう。到底他人に胸を張れるような話ではない。しかし、貧乏神のチアキに取り憑かれていることが分かったというのは、決して悪くはなかったかもしれない。原因が分からないまま、不幸が積み重なり、体調が悪くなっていくのでは、精神的な負担も大きくなったはずだ。ただ、真緒は、チアキを地縛霊と勘違いしていた。引っ越しさえすれば、問題は解決すると思っていたようだった。それもあって、真緒は、堂々と風呂にも入っていた。なかなか普通の人間にはできないことだ。しかし、それは勘違いであって、真緒は更に、チアキに苦しめられることになるのだ。
次の日は、真緒は、会社に行って、いつも通り仕事をした。後は、現場回りをすれば仕事が終わる。仕事が終わったら、不動産屋に行って、物件を探すことにしていた。いくら気が強いとは言っても、あんな化け物と暮らすわけにはいかない。引っ越してあの化け物がいなくなら当然、引っ越すだけだ。そして、その現場回りも終わり、会社に向かっている途中で、真緒は声を掛けられた。それは、占い師だった。街角で、行列を作るほど人気のあるなんとかの母だった。テレビに出ることもあるので、真緒も顔を何度か見たことがあった。

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