いつか君を忘れるまで
「あの?」

静かに問いかける女の子の声に、俺は我に帰った。

「あ、すみません。¥1680です。」

俺はそう言いながら、冷静になろうと視線を逸らした。

アイツじゃない、他人の空似だ。

そう自分に言い聞かせる。

女の子が財布からお金を渡す手は、細く長い。
アイツの、小さい手とは大違いだった。

「ありがとうございました。」

何とか気持ちを沈め、袋にいれた本を渡す。

軽く会釈した女の子は、そのまま店を後にした。

俺は、アイツにそっくりな後ろ姿を、まともに見送ることができ無かった。
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