その手で撫でて


後ろから誰かが追い掛けてくる


「誰か」なんてすぐに分かる。


きっと野上さんだ

私には、分かる。


けれど部屋に入った私はすぐに部屋の鍵を閉めた。


ママと重なった野上さんの手
私の大好きな野上さんの手。


当たり前の事なのに。


目の前に叩きつけられた現実に
私の心は、粉々に壊れてしまいそうだった。


私には一生かけても叶わない事がママには簡単にできる。
野上さんに触れる事なんてママには簡単。いや、当然の事なんだ。

考えれば考えるほど、余計なことばかりが浮かぶ。

あなたはその愛しい手でママのどこを触れましたか?

あなたのその唇はママの唇と何度も重なったのですか?


あなたの体は…心は…


ママはあなたの前で何度女になったのですか?


気付けば涙がこぼれて
胸が苦しくて
深い水の底で息が出来なくなったように
苦しくて、苦しくて、
めまいがした。
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