Addict -中毒-
どこ?
どこに居るの―――?
人の波の間に立ちすくみ、私は視界だけをキョロキョロと動かせた。
「ったく、出張ったって急過ぎるンだよ。親父に言っとけ」
声が遠ざかる。
あの低くて―――甘い、独特のくすぐるような声。
あのちょっと生意気な口調。
「―――あ?んなこと言ったって…」
そうこうしているうちにあの声はどんどん私の耳から遠ざかっていく。
―――
結局、またも私は彼を見つけられなかった。
聞き間違い?
ううん、そんなことない。
あの色っぽい独特な声は一度聞いたら忘れない。
それに“アヤコ”って言った。
それが彼にとって特別な女であることを―――
認めざるを得ないようだ。
私は彼を探すことを止めた。
バカバカしい。
いい歳した女が、年下の男にこうまで翻弄されるとは―――
私は再びスーツケースを引くと、彼の向かった出口の方向とは別の出発ゲートに向かった。