Addict -中毒-


なん―――で……


しばらく私はその場から動けなかった。


体が金縛りに合ったみたいだ。


「何だよ。幽霊に会ったかのような顔して」


彼がちょっと面白くなさそうに唇を尖らせる。


「いえ…ちょっとびっくり―――しただけ…」


曖昧に答えると、私はどの席に座ろうか迷いながらカウンターに並べられたスツールを眺めた。


「ここ、おいでよ。待ってたんだ。あなたを」


彼はにこにこして、そしてやっぱりちっとも不自然じゃないスマートな動作で、自分の隣のスツールを手で軽く叩いた。




待ってたんだ。あなたを―――





彼の言葉が心地よく私の胸へ落ちる。


それと同時に、あの燃え上がるような熱い何かが私の中を支配した。




ここで妙に席を空けて座るのも、意識してると思われると思ったので、私は彼の言う通り彼の左側の席に腰掛けた。


彼の前には飲みかけのロンググラスが。その中には赤い液体が入っていた。グラスの口にライムが添えてある。


「随分刺激的な色ね」


開口一番に彼に問いかけた。


変な挨拶は要らない気がしたから。


「飲んでみる?エル・ディアブロだ」


彼は私の前にグラスを移動させた。


エル・ディアブロ―――それは





赤い悪魔








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