ラフ
午後からの仕事は、何とか気力で持ちこたえた。

本当は、今すぐにでも、奈緒のところへ行って、真実を確かめたかった。
きっと、何かあったに違いない。
高松は、手が早いし。いきなり奈緒に抱きついていったに違いない。
きっとそうだ。
奈緒もびっくりして。その一瞬を取られただけだ。
きっと、そうだ。

でも、そうじゃなかったら?
本当は、あの時、俺より高松の方がいいと思っていたとしたら?
奈緒の気持ちは、すでに高松にあるとしたら?

つらくてたまらなくなった。
何でこんなにつらいのかわからない。
早く、奈緒に会いたい。
会って、直接、奈緒の口から、違うと否定してほしかった。


いつの間に、俺ってこんなに女々しくなったんやろ。
ほんと、かっこわりぃ。


仕事も定刻に上がれるよう、がんばった。
終わって、時計を見ると、時刻は18時になっていた。
携帯には、まだ、奈緒からの連絡はなかった。


・・・まだ仕事中かな。


よし、と、決心して、奈緒の会社へと向かった。
場所はなんとなくわかった。帽子も深くかぶり、太いふちのめがねをかけて、ぱっとみは、泉要だとわからないはずだ。


「奈緒ちゃんのところにいくんか?」

帰り支度をしている堺が声をかけてきた。

「あぁ。気になってしゃーないねん」

「そうか。がんばっていってこい」

「おう」

堺はぱんっと背中を叩いた。
なんだか少しだけ、勇気が出た。

テレビ局を出て、タクシーに乗った。場所は、今日の朝、奈緒を見送った場所だ。
そして、メールを打った。


【仕事終わった。どうしてもすぐに会いたい。今朝、見送った場所まで今から行きます】
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