ラフ
「・・・どこに行くんですか?」

高松に聞いてみたが、いいとこ、とだけしか返事がなかった。
環状線を飛ばし、高速を飛ばし、ついたのはUSJだった。

「ほら、こっちこっち!」

高松に引っ張られて、そのまま園内に入る。朝早くだったせいか、人は少ない。

「あ、奈緒ちゃん、絶叫系は大丈夫?」

聞かれて頷いた。絶叫系は大好きだ。

「よし、じゃ、片っ端から乗るぞ!」

そういって入り口の一番近くからある乗り物に片っ端から乗っていった。


気がつけば、すでに2時間がたっていた。

「楽しかったー!」

辛い気持ちはだいぶ薄れていた。
にこにこ笑って、パレードを見ている奈緒をみて、高松は頭を撫でてきた。

「な、なんですか?」

「いいや?元気になってよかったな、と思って」

「えへへ、ありがとうございます」

きっと、1人ではこの気持ちは浮上させられなかったと思う。思い切り泣かせてくれて、時間もくれて、気分転換もさせてくれた。感謝してもしきれない。

「奈緒ちゃんが笑ってくれれば、それでいいよ」

高松がニコニコ笑っていると、突然、高松の携帯が鳴り出した。

「あ、ちょっとごめん。はい、もしもし」

高松が電話をしている姿をみて、自分の携帯が気になった。
いきなり電話を切ってしまった上に、電源まで切った。
泉が心配しているんじゃないか、怒っているんじゃないか。
そう思うと不安になった。

「えー?無理無理。だって今、デート中やから」

耳を疑った。そんなつもりではなかったが、よく考えてみれば、立派なデートになっていた。

「高瀬1人で大丈夫ですって。え、無理?そんなん、こっちが無理ですって」

喧嘩しているのが分かった。多分、仕事が入ったのだろうが、高松がそれを断ろうとしているようだ。

「あの、高松さん」

小声で、電話の向こうには聞こえないように高松の服の裾を引っ張って呼ぶ。

「ちょ、ちょっと待って」

携帯の通話口を塞いで、笑顔で振り返る。

「どした、奈緒ちゃん」

これ以上、迷惑をかけてはいけない。それは十分承知していた。
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