ラフ

ごめんなさい

***** 奈緒's View *****

高松の車に乗り、仕事場の劇場まで急いだ。

「あ、私は適当なところでおろしてくれたらいいです」

そうそう、と、高松に言う。

「何言うてんの。これから最後のしあげやん」

高松の言う意味が分からずに首をかしげた。

「今日、お笑いの舞台があって、それに今から出んねん。それのチケット、マネージャーに1枚用意させてあるから、お笑いでもみて、スカッと笑って、元気充電してから帰り」

高松は相変わらずニコニコ笑って言った。

「なんで、そこまで・・・」

高松があまりにも親切すぎて、逆に少し怖い。多分、失礼な話だと思うが。

「言うたやん。俺、奈緒ちゃんが笑ってたらそれでいいて」

言葉に詰まる。

「ま、正直な、最初は、俺のことふるとか、なんやねん、こいつって思ったわけよ」

あはは、と苦笑いしか出ない。

「でも、怒ってるか、泣いてるとこしか見てない子が、ちょっと笑ったときの、その顔が、めっちゃ気にいってん」

「えぇ??」

意味が分からない。一体、どんな萌えツボだというんだ。

「で、理由はまぁ、分からんけど、とにかく笑わしたろと思てな。コレでも芸人や。好きな子くらい、笑わせんでどーするよ、って話や」

「はい??」

今、好きな子って・・・

「俺、知ってると思うけど、結構遊び人やねん」

「知ってます」

「・・・傷つくなぁ。ま、ほんまのことやから仕方ないけど。たぶん、コレはオヤジの血やと思うわ。ま、それは置いといて。俺に近づいてくる子って、大体、芸人としての俺、有名人としての俺。オヤジの息子としての俺。そんなやつばっかりやってん」

なんとなく想像がつく。有名になればなるほど、多分、周りの対応や接し方は、きっと変わってしまうだろう。
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