HOPE
 やはり、何かがおかしい。
「君に興味を持ったんだ」
 屋上で言っていた彼女の言葉を思い出す。
 いったい、天道は僕の何を気に入って、こんな事をしているのだろう。
「お前、僕と一緒にいて何か楽しいわけ?」
 天道は少しだけ考える様に腕を組んだ。
「というより、最近は暗くなるのが早いからな。隣に男がいた方が何かと安心なんだ」
 そんな訳がない。
 そんな理由だけで、僕なんかと一緒にいるわけがない。
「お前みたいな、男口調してる奴を狙う物好きはいないと思うぞ」
「口調なんて関係ないだろう。世の中には男で女口調な奴がいるんだから」
「それって、ただのニューハーフだから!」
 つい、突っ込みを入れてしまった。
 まったく、どうも調子が狂う。
 天道はクスクスと笑う。
「何だよ?」
「お前といると面白いなって。そう思っただけだ」
 僕は、フンと鼻を鳴らし、天道から目を反らした。


「明日もちゃんと学校に来いよ」
「まあ、その日の気分次第だな」
 そう言って、僕は天道と別れた。
 後ろから彼女の声が聞こえて来る。
「遅刻するなよー!」
 彼女の声に、適当に手を上げて合図をした。
 

天道と別れた後、いつも煙草を買っている自販機へ寄った。
いつもなら迷わず購入するのだけれど、なかなか手が伸びない。
 数十秒悩んだ後。
「今日は止めておこう」
 結局、煙草は買わなかった。


 コンビニで適当に弁当を買って帰宅した。
 家の中には誰もいない。
 聞こえて来る音といえば、時計の針が秒針を刻む音くらいか。
 机の引き出しを開けると、そこにはリストバンドが一つ入っている。
 これは、かつて綾人の物だった。
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